会報誌「ともに」横浜だより

18.11.15 No.44

毎日社会福祉顕彰受賞のご報告 信愛塾スタッフ 福島周

 信愛塾は今年、毎日社会福祉顕彰(毎日新聞東京・大阪・西部社会事業団主催、厚生労働省、全国社会福祉協議会後援)を受賞しました。毎日社会福祉顕彰は全国の社会福祉関係者および団体から、特に優れた功績をあげ、社会福祉の発展向上に貢献している個人あるいは団体を顕彰し、新しい福祉国家の形成と進展に寄与することが趣旨とされています。
 その贈呈式が10月31日、毎日新聞社の東京本社が入るビルで行われました。今回は贈呈式の席でセンター長の竹川が語った言葉を掲載します。

 今年の秋で信愛塾は40年を迎えました。その記念すべき年にこのような賞を受賞することができ、「本当に素敵なプレゼントをもらったね」と子どもたちや保護者の方々、そしてスタッフ一同、本当に喜んでいます。
 この40年の月日は本当に山あり谷ありでした。青空のときもありましたが厳しいときにいつも私たちのそばにいてくれたのが子どもたちやその保護者の方々でした。「先生、前へ進もうよ」と背中を押してもらい、なんとかここまでやって来れました。その背中を押してくれた子どもたちが大人になり、今また信愛塾に様々な形で関わってくれています。
 信愛塾は在日韓国朝鮮人の子ども会として発足しました。そして1990年台の出入国管理及び難民認定法や国籍法の改正で多くの日系人や中国残留日本人、そして中国、台湾、フィリピンの方々が来日しました。その時は本当に何も分からず、この子達にどうやって日本語を教えればいいのか、でも「母語は忘れないでほしい」という想いで、スタッフも子ども達も一緒に前に進んできました。
 信愛塾が一番大切にしていることが「子どもの命を守る」ことです。お腹いっぱい食べ、そして心も満たされ、子どもたちは初めて一歩が踏み出せます。しかし外国につながる子どもたちの一部は母語も日本語も話せないために自分の苦しみを伝えることができません。その時に子どもたちは言葉ではなく体ごとぶつかってきます。でもそれをしっかりと受け止めていく。それはもうハラハラドキドキの毎日でしたが、信愛塾を巣立った子どもたちが「大丈夫、僕がいるから」と言って助けてくれて、それがとても私たちの励みになりました。
 子どもたちは見える課題、見えない課題など様々な課題を抱えています。その課題を私たちは一つ一つ受け止め、そして丁寧に解決しながら一緒に進んできました。同時に子でもたちの声を、そして声なき声もすくい取るという想いの中でやってきました。
 信愛塾はとても小さなNPOです。もしかしたらもう来年はないかもしれない、あるいは来週どうやって家賃を払うのか、財政的にも厳しい中でやってきました。しかし次に続く子どもたちがどんどん育ってきています。現在260万人の外国籍の方々が日本に住み、その中の本当に小さな子どもたちや保護者たちも定住者として、また地域の住民としてとても頑張っています。その方々の声を聞いて、聞いて、聞き続ける中でいろいろなことが分かってきました。その声を、信愛塾の力としながら、それをまた発信していきたいと思っています。
 信愛塾は小さなNPOですが底力はあります。「任せてください」というふうに学校や行政には言ってます。その中でこの賞を受賞できたことは本当に励みになります。ありがとうございました。

 「顕彰」とは「(隠れているよいことを)明らかにあらわすこと。明らかにあらわれること。功績などを一般に知らせ、表彰すること。」とあります。事業団の方の話の中で、「表彰されることがまた発信することにつながっていく」という内容の言葉がありました。竹川の話にもあったように、信愛塾の活動や子ども達が置かれている現状をどのように発信し裾野を広げていくか、とても大切で大きな課題です。そういった点でも、毎日新聞社という「伝える」ことをビジネスの根幹としている企業が発足させた事業団から評価され、顕彰をいただけた意味は大きいのだと思います。
 40周年は節目ではありますが同時に一つの通過点です。より多くの子どもたちの利益に資するために力強く活動を続けて行きたいと思いますので、今後ともますますのご声援を宜しくお願い致します。

この先の可能性 学び直し教室 受講生

 私は今までちゃんと勉強をした事が一度もなかった。私が生まれて育ったのは横浜の寿町という所だ。中学を卒業して高校に行く人は私が子どもの頃は多分ほとんどいなかったと思う。だいたいが中学を卒業しても、ちゃんと就職せずにプラプラしていた。必要なときだけ働いて日銭を貰う。それを幼い頃からみていたせいか、私は子どもの頃からこの生活がこれ以上良くなる事はないと思っていた。良くならないのに勉強しても無駄だとさえ思っていた。でも私が中学を卒業する頃には、ほとんどの人が高校に進学した。同じ寿町の子でも高校に行った子はいる。その頃にはさすがに私でも読み書きと計算が出来ない事に、不安を感じたが誰にも言い出せずにいた。ずっと不自由は感じていたし、このままでは良くないと思っていたけど、だからといってなにもしなかった。
 今年の3月にある人の存在を知った。その人は私とほとんど歳が変わらないのに自分のやりたい事をちゃんと仕事にして海外で活躍している。彼がこう言っていた。「人は本当にやりたいと思ったら、絶対に行動に移す。なにも行動せずに言い訳する人は本気ではない。自分のやりたい事を見極めて、努力を惜しむな。」歳が近かったせいか、彼の言葉がすごく刺さった。このままでは良くないと思いながら、なに一つ努力をしてこなかった。行動に移せずにいた私は、自分の事を言われている様な気がした。「どうせ本気じゃないんでしょ」って言われている気がした。そうだ、ここで行動に移さなきゃ、今までと何も変わらないと本気で思ったので、子どもの頃から寿町でお世話になっていた学童保育の職員の方に連絡をして、ちゃんと勉強がしたいから、教えて欲しいと頼んだ。その方が信愛塾の竹川さんを紹介してくれて、今、週に1回、読み書きと計算を教えてもらっている。その他に別の所で英語も週に1回教えてもらっている。
 この前、信愛塾で勉強を教えてもらっている福島さんに「この先こうなりたいってことありますか?」と聞かれたけど、私は子どもの頃から一度もこうなりたいと思った事がなかった。なに一つ努力してこなかった私はきっと、無意識に自分になんの可能性も感じていなかったんだと思う。勉強を習いたいと思ったのはこの先、自分に少しでも可能性を感じたいと思ったからだった。人はそれぞれ人生の価値を何に感じるのか、それは様々だと思う。私が好きになる人に共通しているのは、自分を貫いている人だ。誰でもない、自分の人生を生きている感じがするからだ。ずいぶん先の事になるとは思うけど、私もこの先少しでも、自分自身に可能性を感じられる様になりたいと思う。

外国人労働者の受け入れと日本の未来 信愛塾スタッフ 大石文雄

 今外国人労働者の受け入れが大きな話題になっている。日本は少子高齢化により生産労働人口が足りない。政府は経済界からの要請を受けて移民としてではない外国人労働力受け入れのための法制化を急いでいる。来年の4月を目途に入管法改定を行う予定で国会での論議が始まったが、実はこの問題はこれからの日本の将来にかかわるとても重要な課題である。「労働力を呼び寄せたつもりが、やってきたのは人間だった」という言葉があるが、見事にこの問題の本質を表している。これまでも日本政府は「単純労働者は認めない」ことを閣議決定し、移民政策をとらないということでやってきた。しかし、128万の外国人労働者が就労していることからも分かるように、実際は正面からの受け入れを認めないだけで、脇や裏からの労働力受け入れを行って経済界からの需要にこたえてきたのである。
 そのやり方は技能実習生や留学生を利用した単純労働の受け入れである。技能実習の建前は技術・技能の移転ということであるが実際は「時給300円労働者」などといわれるように、安価な労働力の供給源として使ってきた。留学生も「出稼ぎ留学生」と言われるように週28時間内の資格外労働で、勉学よりも労働を目的にアジアの貧しい国からやってくる若者を安価な労働力として利用してきた。
 技能実習とは名ばかりで実際は技術移転とは全く関連のない職に就かせたという話が多い。例えば、海のない地域から来ている人に牡蠣の殻剥きばかりさせてきたり、時給300円で朝から深夜まで働かせたり、パワハラやいじめにあっても異動させてもらえなかったり、言葉ができないといって殴られたり、繁忙期の人手不足などで1か月130時間の時間外労働をさせられたなどという実態も報告されている。技能実習生が労働条件などで不満を述べたり権利を主張したりすると、本人の意に反して強制帰国されたりもする。強制帰国という脅しは、来日する前に多額の借金を負ってきている実習生・留学生にとって、帰国=「多額の借金の残存」を意味し恐怖そのものとなる。実習生や出稼ぎ留学生はいわば債務奴隷状態の弱い立場に置かれているのである。
 問題はこれまでも技能実習制度の改革が行われてきたのに、このような実例が今も訴えられているという現実である。こうした現状に向き合わないまま、ただ労働力不足が解消できさえすれば良いとする政府の姿勢である。もちろん「日本人同等かそれ以上の賃金」とか管理機関の監視とか見栄えをよくした話はある。しかし10年間(従来の技能実習と特定技能(1)との通算で)も家族の帯同を認めないとか、自由な職の移動を認めないとか、医療保険の海外家族の使用禁止とか、人権への配慮が全く感じられないご都合主義ばかりである。こうした政策は日本が人権劣国であることを世界にさらす効果しか生まないだろう。開発途上国への技能移転という国際貢献の崇高な目標を掲げた技能実習制度が「搾取と人権侵害の温床」になっているというのはあまりに恥ずかしい話だ。
 外国人労働者を移民として迎え入れるのであれば、社会保険や医療制度の整備、人権を尊重した共生教育の充実、罰則を伴うヘイト規制の強化、外国人参政権の実施、公務員の国籍条項の撤廃など今すぐにもやらなければならない課題はいくらでもある。このような課題に目を背けたまま、人が足りないから、企業の要請だからと、技能実習生制度をテコ入れして働き手を確保しようというのはあまりにもご都合主義に過ぎるだろう。困ったときには地域社会に丸投げし、学校(教育)や自治体(福祉)、あるいは信愛塾のような地域NPOに放り投げて済まそうとする。企業も社会的責任を放棄したままであり、国も未来を見据えた政策が立てられないというのでは国家の劣化そのものである。こんなやり方で世界の人々から信頼され尊重される日本になれるとはとても思えない。共生の現場である信愛塾からもしっかりと声をあげていきたいと思う。