会報誌「ともに」横浜だより

20.3.7 No.52

認定NPOを目指して 行政書士 森田佐知子

 私が信愛塾を初めて訪れたのは、前職の横浜市国際交流協会(ヨーク)職員だった20年くらい前のことですが、深く関わるようになったのは、行政書士として外国人の在留に関する仕事を始めてからです。信愛塾では、子どもの保護者や大人になったかつての子どもたちからもたくさんの相談を受けています。深刻なケースも多く、その中で在留資格に関連した数件を私もお手伝いしたことがあります。法務局でも頭を抱えてしまうような解決が困難なケース、解決までにいくつもの手続きを経なければならず、気が遠くなりそうなものもありました。解決できないまま、子どもたちはここで生活し、どんどん成長していきます。日ごろその子どもたちを見ているスタッフの方たちは気が気ではないだろうと思います。
 2年前からは、認定NPO法人になりたいという意向を受けて、手続きのお手伝いをしてきました。認定NPO法人というのは、NPO法人の中でも運営の方法や、経理面などの厳しい条件をクリアした場合に認められる資格です。認定を受けた団体への寄付は、確定申告の際に届け出れば、税金の控除が受けられます。住んでいる地域によっては住民税も安くなるので、寄付をしてくださった方にメリットがあります。相続財産を寄付いただくことで、相続税を少なくすることができます。寄付を集めやすくなるわけです。
 信愛塾にはすでにたくさんの方が寄付をしてくださっています。市民の応援があることは認定NPOを取得するための条件のひとつなのですが、その点では条件を満たしています。
 しかし、認定NPO申請準備の過程で見えてきた課題もあります。信愛塾を支えている事務局スタッフの身分保障が不十分なことです。働いた時間分の賃金を払っていたりしたら、それが法定最低賃金でも財政が破綻してしまいます。社会保険に入ることも困難です。このような活動に関心がある若い人たちもいるでしょうが、現状では正職員として雇うことは難しいと思いました。
 多くのNPOでは、活動資金は会費と寄付でなりたっています。助成金や役所などからの事業の委託料もあります。講座などの事業収入もありますが、事業収入を得るためには運営スタッフがもっと必要です。そのための人件費を考えると、収入増にはつながりにくいのが現状です。信愛塾の財政が厳しいことはだれが見ても明らかだと思いますが、事務局からそのような発信があまりないように思いました(困ってます、となかなか言えない...)。
 信愛塾を居場所としている子どもたちやその保護者たちからは、利用料をいただくのは難しそうです。では、どうしたらよいか。認定NPOになれば、信用度もアップし、税金面で優遇されるので、企業などからの多額の寄付も期待できるのではないかと考えたのです。私としては、(縁起でもないですが)信愛塾の活動に共感する方からの相続財産の寄付などもあるかもしれないと思いました。
 ですが、認定NPOへの道は険しそうです。認定NPOは事業活動が適正であるのはもちろんですが、さまざまな書類を適正に作成しなければならず、日ごろから事務的な作業がかなり必要になります。認定された後も定期的な審査があります。信愛塾は忙しい現場をもっているので、それを裏で支える経理部門、事務部門にまでなかなか手が回らないのです。
 結局、残念ながら認定NPO申請作業は中断していますが、私としてはできれば再開したいと思っています。この作業をすることで、あいまいになっていたところも整理できると思います。
 信愛塾で、ここを巣立った若者たちが母語と日本語を生かして、こんどはサポートする側として関わっている姿を見て、すばらしいことだと思いました。卒業生たちがいつでも戻ってこられる場としても続いていってほしい。そのために私も自分の専門知識を生かしてお手伝いしていきたいと思っています。

2019年は信愛塾の年 信愛塾ボランティアスタッフ 牧野巧

 2019年は翌年に二度目の東京オリンピックを控えた日本にとってとてつもなく大きな意味のある年でした。
 そんな2019年は、私にとっても新しい出会いと経験、そして成長をもたらした大きな意味のある年でした。
 2018年、「公務員として働く」という目標のため、勉学に励み各所で行われる採用試験に挑んだものの、結果は見るも無残なものでした。不合格通知がくるたびに気分は重くなり、挑んだ採用試験全ての不合格が確定した時にはひたすら自分の無能を呪い、自己肯定感のかけらもない自分が出来上がっていました。そんな暗い気分のまま、2019年を迎え、何とかしなくてはいけないと悶えていたところに祖母からボランティアの誘いがありました。その内容は、祖父母で以前から寄付を行っている施設があり、そこで在日外国人の子どもたちにボランティアとして勉強を教えたり遊び相手になったりするというものでした。私自身、子どもと関わることは好きだったのと、就活を続けていくうえで、何か武器になるような経験が欲しかったという思いからボランティア参加を決意し、祖母の案内でその施設に足を運びました。これが私と信愛塾との最初の関わりでした。
 毎週木曜日に足を運ぶことになった信愛塾でのボランティア活動は私にとって未知の世界といえるものでした。信愛塾にやってくる子どもたちは元気に満ち溢れており、こうしたボランティアの経験が皆無で、勝手がわからなかった私は毎度毎度振り回されました。子どもたちは一人一人が強い個性を持っており、また、学習の進行度合いも違ってきます。日本にやってきた時期や、家庭の事情などにより、同じ学年の子どもであっても差が見られ、子どもによってはひとつ前の学年で学んだことすらしっかり身についていない場合もあり、一人ひとり教え方を大きく変える必要がありました。正直ラクではありませんでした。ですが、ラクではないことが苦になることはありませんでした。なぜなら、とても楽しく、やりがいを感じていたからです。子どもたちは無邪気で、それでいて人懐っこいです。わかりやすく人懐っこい子から、気難しい子まで様々ですが、根っこはみんな同じです。そんな子どもたちと関わりはじめ、勉強を手伝い、遊び相手をしていく中でいつしか子供たちは私の名前を覚え、「牧野先生」と呼び慕ってくれるようになりました。誰かに必要とされているという事を実感したのはいつ以来だったでしょうか、就活に失敗し沈んでいた私の心にその実感がスーッと効きました。信愛塾でのボランティア活動は面接で話すことを増やすための材料集めから、いつしか毎週の楽しみに変わっていたのです。信愛塾は、子どもたちに居場所と自己肯定感を与える場所ですが、同時に私のような者にも力をくれる、そんな場所だったのです。
 当初の目的であった就活に向けた材料集めという点でも、信愛塾はとても大きな支えになってくれました。私のボランティア活動の話に実感を持たせるうえで、子どもたちとの関わりのエピソードはとても大きな役割を果たしました。それだけでなく、センター長の竹川さんや廣海先生をはじめとする信愛塾の皆さんが、私の面接練習をしてくださり、また、それに基づいた様々なアドバイスをしてくださりました。そのおかげで私は、なんとか自分の目標であった公務員への就職を果たすことが出来ました。信愛塾との関わりがなければ、きっとこうはいかなかったことでしょう。信愛塾の皆さんと子どもたちには本当に感謝しています。
 信愛塾、そして子どもたちと出会ったこの1年は、私にとってもっとも密度のある1年間でした。私にとっての2019年は、まさに信愛塾の年だったのです。そんな信愛塾がこれからも子どもたちの笑顔に包まれ続けることを心から願っています。本当に、本当にありがとうございました。