24.6.21 No.77
- 排外主義に悪用される選挙運動を超えて
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韓国では去る4月10日に総選挙の投票がおこなわれ、野党が圧勝した。日本でも報道された通りだ。だが、ここでは選挙の結果ではなく、その過程で発生した排外主義的な動きについて考えてみたい。
総選挙に名乗りを上げた自由統一党のパク・チンジェ候補は大邱のある選挙区で出馬、自分が率いる「自国民保護連帯」のメンバーを連れて街頭に出た。あちこちで外国人と見られる人びとを見つけては「こっちにこい」などと呼び止め、メンバーで取り囲み身分証を出させるなどおどかし腕力で抑え込んでは、所持していないと地面に座らせて警察を呼び引き渡そうとするなどの乱暴な行為を行なった。団体のメンバーたちの行為は暴力そのものだった。パク候補はこうした行動を撮影してユーチューブにアップして宣伝もしている。
パク候補の連絡で現場に到着した警官は、こうした行為が不法拘禁に該当しうると注意した。だが、法律に違反する「現行犯」を取り押さえているのだから違法ではないと強弁し、警察と口論するありさまだった。こうした行為は『京郷新聞』『ハンギョレ』などで大きく取り上げられたが、パク候補らは意に介さないようだった。もちろん、こうした候補は当選しなかったし、当選するつもりで立候補したわけではないだろうが、取り囲まれた外国人たちは恐怖感を感じたにちがいない。
日本でも選挙運動を通じて排外主義をあおるグループが問題になっているが、韓国ではそれ以上に「行動的」動きを見せている。韓国では朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と対立が続いているため、反共はかつて「国是」とまでいわれ、1990年頃に世界的冷戦が終息する以前には社会主義圏をはじめとする諸外国との人的交流もなく、半島の突端の孤島のような存在だった。こうした影響もあり、米国には親近感を抱いても、非欧米の人びとに対しては排外意識を持ったまま今日に至っている人びとが一部に存在するのである。ちなみに自由統一党の党首は右派キリスト教の牧師である。日本でも「ネトウヨ」という言葉があるが、日本とは少しちがった経緯から排外主義グループは同時に反共団体であることが多い。
日本でもしばしば報じられているように、韓国は日本を上回る勢いで少子高齢化が進み移住労働者がいなければ社会が成り立たない。それにもかかわらず、移住者に対する嫌がらせはあとをたたない。雇用許可制により外国人も労働者としての権利を認められるようになったが、非専門職に従事する外国人の待遇は劣悪だ。韓国でも日本と同様に農村部で外国人の働き手が多いが、その住居はしばしばビニールハウスである。統計庁によると2023年12月時点での「移民者在留実態及び雇用調査」において移民人口は143万人、そのうち経済活動人口は97万5000人で、さらに非専門職就業者は26万9000人だった。在留資格別に統計を集計しているので、現実の非専門職労働者はさらに多いだろう。この27万人近くの人びとの住居をみると、その20%はビニールハウスかコンテナである。もちろん、これは望ましくない。だが、あらためて考えてみると、農漁村などの韓国人住民自身が相当に劣悪な居住環境にあるのではないかという疑問もわく。
現在のユン・ソンニョル(尹錫悦)政権は「低出産」対策として外国人家事労働者導入をはかり、8月から試験実施すると発表した。外国人家事労働者の導入は政権が昨年から検討してきたものだが、そこに「低出産」対策という名分が付いたようだ。韓国人家事労働者の賃金が300万~450万ウォンなのに対し、中産層に利用できるようにと最低賃金を適用しない100万ウォン台の賃金とする方向で検討しているという。しかし、これでは高所得者の便宜を図ることにしかならないだろう。韓国人家事労働者の生計も圧迫しかねない。現政権は女性家族部を廃止し低出産対策の省庁を作るというが、女性をはじめとする人びとの人権を無視した、効果も期待できない政策のように感じる。
多文化社会は日韓共通の課題というが、それならば、互いの進んだところを実現すべきだ。韓国が先んじて実施した定住外国人の地方選挙投票権、移住者の労働者としての権利の制度化は日本で考慮されるべき点だ(韓国も労働者の権利についてははなはだ不十分だが)。互いによろしくないところを学び活用するのではなく、少しでも市民の努力で得た成果を生かしていければと思う。
- 地方自治が危ない!
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明治新政府は徳川幕府を倒し政権を奪った四年後、1871年(明治4年)廃藩置県を行った。日本全国の藩を天皇主権の新たな中央集権国家に統合するためだった。各藩には中央から任命された県令(県知事)を置き、日本全国あまねく中央の方針が行き渡るようにするため、新政府にとっては国家統治への大切な第一歩だった。しかし、この急進的な国家統治方針は、士族や農民の反発に合い、近代日本の最も激しい民権運動(自由民権運動)の一つとして広がった。これに対し。明治政府は弾圧と国会開設の懐柔策でこの運動を鎮圧した。明治新政府の中央集権国家造りは、明治憲法発布、国会開設へと進んだが、天皇主権中央集権国家への道であり、議会は納税男子の制限選挙によって選ばれた議員によるもので、基本的に民衆の自由な意見が反映されるものではなかった。
敗戦後はこの中央集権国家の反省から、女性にも普通選挙権が認められ、選ばれた議員による国会の開設となった。これは新憲法によって保障されたもので、この憲法には、第8章に地方自治の条項ができた。現在は平成の大改革で約1,800の市町村になったが、そのそれぞれに地方議会と議員がおかれた。
以降、国と地方のせめぎ合いを経ながら、次第に地方自治の大切さが定着し、1960年代には特に太平洋ベルト地帯には次々と革新自治体が誕生し、住民の要求を国に先行して実施するスタイルが定着していった。地方自治の発展と施策は住民生活の基本的な役割を担うもので、この認識が定着したものが、2000年の地方分権一括法だった。地方自治体と国は対等な関係である。この法案は画期的であり、明治以来130年余を経てやっと世界のレベルに到着したと言える。
ではなぜ今、国にとって地方自治法の改正が必要なのか? 何が問題か?
改正案は「新型コロナ禍を受け、緊急時に国民の生命の保護に必要な対策を、国が地方自治体に指示できる」とする内容が盛り込まれたもので、緊急時とは?国民の生命の保護とは?など曖昧な点が多い。国の恣意的な運用の歯止めもない。日本弁護士連合会や全国の地方議員4108人、18地方議会が反対の声を上げている。現場を知らない、現場の情報を持たない国は住民を守れない!と反対している。(黒岩神奈川県知事は賛成)コロナ禍でのアベノマスク、全国一律コロナ休校など、国はずれた政策しかできなかった。『国がいつも正しいとは限らない』東京都世田谷区長。
この地方自治法の改正は国の権限強化と国民監視強化・締め付けが仕上げの段階に入っていると思えてならない。特定秘密保護法(国家秘密の強化)、安全保障関連法案、マイナンバーカードによる国民の監視・管理。現在でも主に、自治体の独自事務であっても、国は財政的な締め付けをちらつかせ、地方自治体に国の方針への忖度を強いている。(国籍条項)等々。沖縄県では既に『辺野古基地をめぐり、設計変更承認が法定受託事務だとして史上初めて代執行を強行された。国の権限をさらに肥大化させ、自治をないがしろにしかねない法改正は決して受け入れられない。(琉球新報社説)』と主張している。
世界的にも、専制国家と呼ばれる国に住民自治の発達した国はない。住民自治・地方自治は民主政治の土台である。残念ながら、法案は衆議院を通過したが、私たちは常に現場を大切にし、現場から発信し続け、これからも現場から一歩一歩共生の輪を築き上げていきたい。
※この法案は(編集日程に間に合わず)国会を通過してしまいました。引続き厳しく監視していきましょう。(編集部)
- ~ある日の相談室から~
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運動会、体育祭、修学旅行…と学校行事も無事に終了し、日々の静かさが戻りつつある。
そんなある日、信愛塾のガラスドアが少し開き、中の様子を伺う少女がいた。「たけちゃん先生、誰もいないよね?」と小声で言う。「大丈夫、誰もいないから中入ってねー」と。おかえりなさいと言う間もなく彼女はいきなり「くそ!!くそ!!くそ!!…」の連発で事務室の中に入って来た。顔つきも悪くきっと学校の中で何かあったのかと心配になった。
少女にとっての母語(第1言語)は中国語、家庭内言語も中国語と福建語。第2言語は日本語、学校では日本語で頑張っている。そして4月から中学生になり新たに英語(第3言語)も教科として学習をしている。部活も一生懸命、本当に精一杯なのかと思っていた。そんな中での「くそ!!」の連発は彼女にとっての心の叫びだったのだろう。彼女の日常の中で学校、家族、友人たちとの関係は大きい。ひとりで言葉の壁を乗り越え、「心の重さ」をうまく表現できず途方にくれる中での「くそ!!」の持つ意味は大きい。私にぶつけることにより少し背負った「心の重さ」を軽くしたのではと勝手に想像した。
そんな彼女が昨日はスタッフの王老師と楽しそうに中国語でおしゃべりをしていた。会話をしている彼女の表情はほっこりしている。みんなでたわいない会話をし、お菓子を食べて、「また明日ねー」と帰っていく少女たちの姿を見て、今日も子どもたちが安心できる居場所を提供できたかな…と少し私も一息つけた瞬間であった。
- 編集後記
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最近、信愛塾近隣のお年寄りからたくさんの頼み事が寄せられる。少子高齢化の中で南区中村町にも1人暮らしのお年寄りがたくさん居住し、信愛塾の子どもたちの賑わいが気になるらしく時々「何をする場所なの?」と聞かれることもある。先日もある老婦人にコンビニまで支払いに行ってきてと依頼された。すべて若いスタッフの王くんが引き受け、近所のみなさんから「頼もしい兄ちゃん」と人気になり始めている。もちろん子どもたちにもです。(信愛塾センター長 竹川真理子)
皆さんはお元気に過ごせていますか?そろそろ梅雨入りをし日に日に暑くなる中で、私はあまり体力が無く少し参っているところです。既にご存知の方もいると思いますが、この度入管難民法の改正案が可決されました。私も日本に住む「永住者」として、この法案に反対しています。せっかく永住者になり、何の心配も無く日本に住めると心の中に希望を抱いて、未来の地図を描きながら生きれると思った時に、少し残念な気持ちになります。(信愛塾スタッフ 王遠偉)